アベノミクスでは財政破綻は回避出来ない!
2012年末に自民党が与党に復帰し、安倍晋三が総理大臣に返り咲きました。安倍総理は民主党とは違い、「デフレ脱却」を明確に公約したことで、為替は円安、株価は一気に上昇に転じました。日本の景気が本格的に上昇するのでは?という期待感から、この安倍総理のデフレ脱却政策は「アベノミクス」と呼ばれるようになりました(*注)。
日本中がアベノミクス景気に沸いていますが、果たして本当にデフレ脱却は行えるのでしょうか?そして、日本経済最大の懸念材料である「財政破綻」は、アベノミクスで回避出来るのでしょうか?
安倍総理(及び日銀の黒田新総裁)は、デフレ脱却に向けて『2%のインフレ目標政策』というのを掲げています。インフレ目標とは、当サイトでも紹介したインフレターゲットのことです。インフレ(物価上昇)が起きれば、国債の利払い&償還の負担が実質的に減りますので、財政破綻が遠のきます。日本の財政が危険視されるのは、政府債務の伸び率が高いことではなく、名目GDP成長率の伸びが少ない為、相対的に債務の負担感が大きくなっていることが問題なのです。
日本が財政破綻する確率のページで、世界の主要国の名目GDP成長率と政府債務の伸び率を比較したグラフを掲載しましたが、今回、更に長期のデータを入手したので、詳しく見ていきます。下記の表は、1990年から2011年までの、各国の名目GDP成長率と政府債務残高の伸び率を比較したものです。両者の差が大きいほど、財政破綻の危険性が高いです。
世界と日本の政府債務残高と名目GDP成長率(1990〜2011年、年率平均) |
|
日本 |
アメリカ |
ドイツ |
イギリス |
フランス |
イタリア |
政府債務残高伸び率 |
5.952% |
2.191% |
6.063% |
9.012% |
7.312% |
4.891% |
名目GDP成長率 |
0.186% |
4.437% |
3.279% |
4.513% |
3.042% |
3.742% |
両者の差 |
5.766% |
-2.247% |
2.784% |
4.498% |
4.270% |
1.149% |
データ期間が長くなりましたが、やはり日本の政府債務残高の伸びは世界と比べて決して高くなく、イギリスやフランスの方が遙かに高いです。しかし、日本は名目GDP成長率がほぼゼロであるのに対し、イギリスは4.5%、フランスも3.0%の成長を遂げているので、実質的な債務負担の増加ペースは日本よりも軽いのです。
[ポイント]政府債務残高の伸びを、名目GDP成長率が上回っていれば、財政破綻しない
過去21年間、日本の政府債務残高の伸びは、年率5.9%です。よって、名目GDP成長率が6%を超えれば、債務負担は減っていきます(アメリカのように「両者の差」がマイナスになる)。そして、名目GDP成長率とは『実質経済成長率+物価上昇率』です。この21年間の、日本の実質経済成長率は年平均1.1%でした。通常、先進国の実質経済成長率は3%以上は難しく、日本が今後高いイノベーションを達成できたとしても、2%程度が限界でしょう。
財政破綻を避ける為には、2%のインフレ目標では不十分
話をまとめると、以下のようになります。
1.日本の政府債務比率の伸びは年率6%弱
2.名目GDP成長率=実質経済成長率+インフレ率
3.実質経済成長率は2%程度が限界⇒残りはインフレで補うしかない
よって、名目GDP成長率を6%にするには、4%の物価上昇(インフレ)が必要なのです。最低でも、負担がほぼ増えない水準=3%台のインフレは必要です。方向性こそ正しいのですが、アベノミクスが掲げる『2%のインフレ目標』では、全然足りず
アベノミクス(2%インフレ目標)では財政破綻は回避できない!
という結論が導き出されるのです。確かに世界の先進国では、2%程度のインフレターゲットが主流ですが、日本は政府債務残高が世界最悪であることを鑑みると、より大きな数値を設定する必要があるはずです。
インフレターゲット政策の発案者である、ポール・クルーグマンは「日銀が4%のインフレターゲットを15年続けることが必要だ」と述べています。一見すると無茶な提案に思われがちですが、実際のデータからは4%のインフレが必要な事は、上記の計算と見事に合致します。そして、日本の名目GDPは1997年がピークで、以降じりじり下がり続けています。即ち、15年間成長していないことになりますので、今後15年間インフレターゲットを続けろと言う提言も、理に適っているのです。
安倍総理および黒田日銀総裁は、財政破綻回避の為に、インフレ目標を最低でも3%以上には引き上げるべきなのです。そしてこの目標は、政府と日銀が協力して、国債の引受を増やすなどすれば、十分達成可能な水準なのです。
*注:このまま日本の景気が上向けば、アベノミクスが流行語大賞を取ることは確実です。しかし、小泉総理が流行語大賞を取った時は、その後景気が下落し、虚構景気であったことが露わになりました。アベノミクスが虚構で終わらないことを祈りたいものです。 |