インフレターゲットの問題点
今まで述べてきたように、インフレターゲットはデフレスパイラルからの脱却=日本経済の回復に不可欠な政策です。インフレを起こせば将来の借金の負担は減りますから、増税などせずとも財政再建が可能になります。そして同時に円安を招きますから、輸出産業にプラスに働き、また製造業の海外シフトを低下させる=国内での雇用の拡大を可能にします。つまりインフレターゲットは、日本経済が抱えるほとんどの問題を一気に解決する、魔法のような政策なのです。
ここまで素晴らしい政策が、なぜ採用されないのでしょうか?財務省や経団連がマスコミとタッグを組んで、猛烈なプロパガンダを行っているのも一つの理由ですが、実は一つだけ、インフレターゲットによる弊害もあります。
インフレターゲットの問題点は、インフレによって長期金利の上昇=国債価格の下落を招くことです。端的に言うと、インフレが起これば、現在国債を保有している人達は損失を被る可能性が高くなるのです。政治家や経済学者にも反対論者が多いのは、彼らが大量に日本の国債を保有していて、インフレターゲット政策が行われれば、自分の資産が事実上目減りするからでしょう。国債などの資産を大量に持つ富裕層にとっては、現在のデフレ経済は最も好都合な状態なのです。
しかしよく考えてください。国債を保有している人間は、金持ち・富裕層が圧倒的に多く、一般庶民の保有額など微々たるものです。残念ながら、国家の再建に際して万人が得をするような、万能の政策などありません。ならば、消費税増税で庶民生活が破綻するのか、はたまたインフレターゲットで富裕層の資産が少し目減りするのか・・・どちらが日本経済にとってマシなのかを選択する必要があるのです。
富裕層は資産を2割や3割減らしたところで何ら生活に支障をきたしませんが、一般庶民は5%の増税で生活は苦しくなりますし、中小企業の多くは価格転嫁できないので倒産が激増します。どちらを選択すべきなのか、言うまでもない事です。しかし日本では、マスコミが一律に消費税増税〜つまり前者の選択肢しか示さないので、国民は後者の選択肢がある事に気付けないのです。
消費税を増税しても日本国債バブル崩壊は避けられない
こういうと「郵貯や銀行、年金基金や生保なども大量に国債を保有している。間接的には結局庶民も痛手を被る」と反論する人が出てきます。しかし、郵貯や銀行が損失を被っても、預けた預金が減る訳ではありません。確かに銀行の経営が悪化すれば、貸し渋りが拡大して中小企業に悪影響が出る恐れもありますが、消費税増税をすれば直接的に中小企業の倒産が激増するのは目に見えてますから、それに比べれば被害はずっと少ないです。
インフレターゲットを導入して、日銀に国債を引き受けさせれば、確かに国債価格は下落するでしょう。しかし同時に、政府に大量の財源が生まれるので、財政出動によって景気回復を図れます。そして日本経済を成長路線に乗せれば、郵貯も生保も年金基金も、国債の暴落で被る損失を遙かに上回る利益を(将来的には)上げることが可能になります。
そもそも、2010年現在の日本国債は「利回りが1%を割り込む」という超絶バブル状態なのです。日本のように対GDP費200%超という莫大な借金がありながら、現在のように長期金利が1%しかないのは明らかに異常です。それは世界を見渡しても明らかで、長期金利が1%割れするような国は、古今東西見渡しても日本しかありません。
仮に増税策をとっても、財政再建はできない(むしろ内需を壊滅させる)のは確実ですから、いずれは日本の長期金利は急上昇する=国債バブルの崩壊は避けられない事態なのです。
バブルは早めに叩き潰すのが鉄則です。80年代後半の日本やアメリカのサブプライムローンの例を見ても、バブルを野放しにすると、いざ弾けてからのダメージがより深刻化することは明らかです。国債の暴落は、遅かれ早かれ必ず起こるのですから、インフレターゲット(=日銀による国債の大量購入)という健全な形で、早めにバブルを潰すべきです。そして、日銀が購入することで得られた資金で政府が景気対策を打って、経済成長を促して財政再建することが、日本経済にとって最善の策となるのです。
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