インフレターゲット(目標)とは?
実は消費税の増税などしなくても、財政を健全化し、日本経済を復活させる方法があります。しかもそれは、とても簡単な方法であり、諸外国では普通に行われていることです。その方法は、インフレターゲット(調整インフレ)を導入し、日本経済をデフレからインフレへ転換する事です。
インフレターゲットとは、物価上昇の目標を定めて、それを達成すべく政府や中央銀行が行動を共にする政策です。といっても複雑な仕組みなど必要なく、基本的には日銀が大量に通貨を発行して、国内の資産(特に日本国債)を大量に購入する・・・この一点だけです。日銀が通貨供給量(マネタリーベース)を劇的に増やせば、円の価値が下落するので、間違いなく物価上昇=インフレが起こります。
バブル崩壊後の失われた20年で、日本経済は弱体化し、国の財政は崩壊寸前に陥りました。原因は様々ですが、中でも最もダメージが大きいのが、物価が下落していく「デフレーション(デフレ)」です。確かにインフレも度が過ぎれば経済に悪影響を及ぼしますが、デフレの場合は失業率を急激に悪化させますし、国民の消費マインドを冷え込ませるので、インフレ以上に大問題なのです。それが証拠に、古今東西、デフレで経済が拡大していった国家など存在しません。
日本経済を立て直すには、デフレの解消が最優先課題です。しかし日本では90年代後半より、ずっとデフレは解消できておらず「デフレスパイラル」に陥っています。その原因も明らかで、通貨の流通量(マネーサプライ)が圧倒的に足りないからです。世界の主要国と比較すれば、日本のマネーサプライの少なさは明白です(*1)。
世界の主要国のマネーサプライ(マネーストック)増加率 |
国名 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
2007年 |
2008年 |
2009年 |
アメリカ |
6.0 |
8.7 |
7.6 |
6.9 |
4.7 |
4.2 |
5.3 |
6.3 |
7.1 |
7.8 |
ユーロ圏平均 |
4.2 |
11.2 |
6.7 |
6.6 |
6.3 |
8.3 |
9.4 |
11.6 |
8.6 |
-0.6 |
イギリス |
8.4 |
6.7 |
7.0 |
7.2 |
8.7 |
12.6 |
12.8 |
11.9 |
15.7 |
5.4 |
韓国 |
25.4 |
13.2 |
11.0 |
6.7 |
-0.6 |
3.1 |
4.4 |
0.3 |
15.9 |
12.2 |
中国 |
12.3 |
15.0 |
13.1 |
19.2 |
14.9 |
16.7 |
22.1 |
16.7 |
17.8 |
27.6 |
日本 |
2.1 |
2.8 |
3.3 |
1.7 |
1.9 |
1.8 |
1.1 |
1.6 |
2.1 |
2.7 |
インフレターゲットで消費税増税は不要になる!
この政策だけで、日本経済が抱える深刻な問題のほとんどが解決するのです。1つめに、上記のようにインフレが起きるので、デフレスパイラルから脱却でき、経済の回復〜成長が可能になります。
2つめに、インフレと共に円安が起こりますから、日本経済の命綱である輸出産業の競争力が高まります。また、円安で海外との人件費の差が縮小するので、産業の空洞化にブレーキを掛けられます。輸出企業の成長と、海外との人件費差の縮小で、国内での雇用が増加し、失業率を低下させられます。また円安になれば、海外からの外国人観光客の増加にも追い風です。少子高齢化が進んでも、輸出と観光で外貨を稼ぐ事は十分可能です。
3つめに、1と2の相乗効果によって日本経済は一気に回復できますから、税収が増えます。税収が増えれば、借金(国債発行)を増やさずとも国家の予算を賄えるようになる、つまり財政再建が可能になります。そうなれば、消費税の増税などする必要性は全く無くなるのです。
さらにいえば、対GDP比200%という日本国の膨大な借金負担が、相対的に軽くなります。日本国の借金(=国債)は将来の返済額が決まっているので、インフレを起こせば実質的な返済負担ははるかに軽くなります。アメリカが、経常赤字・財政赤字という「双子の赤字」を抱えていても全く平気なのは、通貨供給量を年々増やして意図的にインフレを起こしているので、借金の実質的な負担は増えないからです。
もう一つオマケもあります。インフレターゲットで日銀が国債を購入すれば、少なくとも当面は国債の消化に支障はきたしませんから、個人向け国債などという庶民を騙すようなボッタクリ商品を売らなくても良くなります。これにより政府は、数十兆円規模の思い切った景気対策を取る事も可能になりますから、現在の不景気からの脱出スピードも速まります。
実は世界のほぼ全ての国が、事実上のインフレターゲットを行っており(物価コントロールの目標値を決めて実行する)、先進国で導入していないのは日本とアメリカだけです。しかしアメリカは、ドルの切り下げによって借金を実質目減りさせる政策を、世界大恐慌時以来ずっと続けていますから、意図的にインフレを起こしているに等しいです。つまり、本当に導入していないのは日本だけなのです。
このように経済にとって良い事尽くしであって、ほとんどの国が導入しているインフレ目標政策ですが、日銀や財務省ははっきりと反対の立場です。また日本国内の学者では、反対論者が圧倒的に幅を利かせており、導入される可能性は現時点では非常に低いです。なぜインフレターゲット政策は実現しないのか?その理由についても分析してみました。
*1:参考データ〜金融経済統計月報(日銀)より。
なおマネーサプライの定義は、アメリカ(M2)、ユーロ圏(M3)、イギリス(M4)、韓国及び中国は記載無し、と各国で多少異なる。
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