法人税を減税しても国際競争力は高まらない
昨今、日本では法人税を下げよ!という動きが高まっています。経団連が消費税増税に賛成する理由も、法人税の減税を達成するのが目的です。マスコミでも「企業の国際競争力を高めるには法人税減税が必要だ」との議論が大勢を占めています。法人税率を下げないと、企業が税金の安い海外へ移転するのが加速するというのです。
実はこの理論は完全に間違っています。法人税減税を行っても、企業の国際競争力は高まることはありません。
会計面から見れば、この理論が嘘っぱちであることが明らかになります。右の図は、政府の法人企業統計(2009年)から、日本の全企業を合計して、損益計算書を作成したものです。総売上が1368兆円で、法人税が課せられる税引き前利益が22.6兆円です(赤い部分)。
法人税というのは、企業の最終利益に課せられるものです。法人税を5%減税したとしても、わずか1.1兆円ほど企業の収益が増えるだけなのです。一方で企業の総コストは1340兆円(売上原価+販管費)にものぼるのです。
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日本企業全体の損益計算書(09年) |
売上高
1368兆円 |
売上原価
1044兆円 |
販管費
296兆円 |
特別損益など
5.4兆円 |
税引き前利益
22.6兆円 |
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つまり法人税を5%減らしても、企業全体のコスト圧縮効果はわずか0.08%に過ぎないのです。思い切って10%減税したとしても、たったの0.16%です。この程度のコスト削減で、国際競争力が高まることなどあり得ないのは明白です。
一方で、全産業での人件費合計は197兆円あります。法人税5%分(1.1兆円)というのは、人件費をわずか0.5%カットするのと同じレベルなのです。もし企業が本当に国際競争力を持ちたければ、人件費が日本の数分の一で済む中国などへ移転するはずです。例えば労働力の1割を海外移転し、現地の人件費は日本の2割で済むとすれば、およそ4兆円の人件費削減が可能です。輸送費や現地での研修費などを考慮しても、法人税5%分(1.1兆円)以上のコストカット出来るのは明白です。ですから、法人税をいくら下げても、海外移転を進める企業の抑止力にはならないのです。
同様に、日本全体で売上原価は約1000兆円掛かっています。法人税率5%分は、製造原価をわずか0.1%分減らすことと同じです。つまり、5%の減税など、莫大な製造原価や人件費に比べれば、無いに等しいレベルなのです。
また、アメリカの法人税率は日本と同じですが、コカコーラやマクドナルドやP&G、ナイキやアップルやマイクロソフトなど、世界を股にかける大企業を輩出しています。このことからも、法人税が企業の競争力にはほとんど影響しないことは明白です。海外移転で税率が下がるよりも、国内で優秀な人材を確保して生産性を高め、販管費などのコストを圧縮する方が、はるかに有効なのですから。
主要先進国の法人税率(2008年度時点) |
国名 |
日本 |
アメリカ |
カナダ |
ドイツ |
フランス |
法人所得税 |
27.98% |
32.7% |
19.5% |
15.825% |
34.43% |
法人住民税等 |
11.56% |
6.55% |
14% |
14.35% |
- |
合計税率 |
39.54% |
39.25% |
33.5% |
30.18% |
34.43% |
株主の利益が増え、一方で庶民には負担がのし掛かる
では何故、法人税減税が必要だという理論がまかり通るのでしょうか?これは、法人税減税が誰に有利にはたらくのかを考えれば、簡単に見当が付きます。
企業の最終利益は、株主のものです。ということは、法人税減税が成されれば、株主の取り分が増えることになります。経団連に属する大企業といえども、経営者や創業者一族が大株主であるケースは非常に多いです。法人税が減税されれば、創業者や大株主らが得をする訳です。
一方で、減税されても従業員の給料が増える訳ではありません。勘違いしている人もいるでしょうが、従業員の給料は「販管費」に属し、企業の利益とは直接関係ありません。つまり、法人税減税と引き替えに消費税増税が行われれば、一般庶民には大きな負担が課せられますが、株主である経営者や大富豪などは得をするのです。
法人税減税は、企業の国際競争力の強化にはほとんど役に立たず、一方で庶民には消費税増税を押しつけられる危険性が高まります。マスコミは経団連の飼い犬なので、彼らの望む法人税減税プロパガンダを繰り返しているのです。このようなマスコミ詐欺に騙されてはいけません!
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